裁判長が各研究科の定年延長手続きなどの説明を指示
浅野教授の地位確認訴訟・第10回弁論――次回は来年1月19日(火)
●堀内裁判長が定年延長の実態、基準の提出を命令
浅野健一同志社大学社会学研究科メディア学専攻博士課程教授が、学校法人同志社(水谷誠理事長)を相手取り2014年2月3日に提訴した地位確認裁判の第10回口頭弁論が、2015年11月5日午前10時から、京都地裁第6民事部208号法廷で開かれました。担当裁判官は堀内照美判事=第6民事部総括判事、髙松みどり判事、渡邊毅裕判事補。同志社大法学部の現役学生、私大教授、元浅野ゼミ生の父親、出版社社員、市民の5人が傍聴しました。傍聴した支援者らの報告をもとに支援会事務局から報告します。
まず、原告側は、被告が10月9日に提出した教授名(1976年から2013年に定年になった院教授)の入った「原資料」(乙58号証)をもとに、浅野教授と同じような定年延長拒否=解雇のケースが過去にあったかなどの求釈明を求めた準備書面(8)を提出。同時に、同文書の作成責任者とみられる吉田由紀雄同大事務局長(副学長)の証人申請を行いました。武村二三夫弁護士が書面の趣旨を説明しました。
堀内裁判長は、被告側に、原告の求釈明に答えるように指示。続けて、乙58書面の作成経緯、作成責任者を明らかにして、この証拠で何が分かるかを準備書面で説明をするよう「裁判所として求める」と発言。裁判長は「作成の責任者は原告が今日承認申請した吉田さんなのか、どうかも含めて明確にし、作成者の陳述書を出してほしい」と要請しました。
裁判長はまた、同大における院教授の定年延長の手続きに関する規定・基準と、どのようなプロセスで審議されているのかの実態について、各研究科でどうなっているかを明らかにするよう求めました。裁判長は「(規定が)ないならばそれでも良いので 、書いてほしい」と念を押しました。被告の代理人の小國隆輔弁護士は、「社会学研究科だけでいいのではないか。すべての研究科というのは時間がかかりすぎる」などと反論しましたが、裁判官3人が協議の上、「全研究科とは言わないが、いくつかの研究科でどうなっているかを明らかにするようにしてほしい」と命じました。小國弁護士は力なく「出すかどうかも含めて検討します」と回答しました。
裁判長と被告代理人の小國弁護士のやり取りの中で、小國弁護士が自ら裁判所に提出した証拠を裁判官に確認する一幕があり、珍事だったためか、左陪席裁判官が小國弁護士の対応に呆れた表情を見せていました。極めて異例のことですが、今年夏以降、裁判官たちの被告代理人を見る目が厳しくなっています。
被告の書面の提出期限は来年1月12日(火)。次回弁論は1月19日(火)午後1時20分、京都地裁208となりました。
●もともと明文化された基準はない
原告側が前から望んでいたことを、裁判所が被告にはっきりさせるように言ってくれたことは重要なポイントです 。小國隆輔弁護士は、裁判長に何度も指示されているのに、「出すかどうかも含めて検討する」などと曖昧な回答を繰り返したのは、裁判体に悪い印象を与えたのではないでしょうか。裁判官3人は被告に厳しい姿勢を示しました。
「これはすばらしい展開だ」と原告側は裁判所の訴訟指揮を評価しています。傍聴席にいた冨田・前研究科長、松隈佳之事務長も含め被告側はかなり困惑していました。浅野教授のように、院教授で定年延長を希望したのに研究科委員会で拒否されたケースは同大の歴史上ないのは明々白々で、ウソを捏造することもできないので、困り果てていると思います。いまさら、社会学研究科の定年延長手続きを調べても何も出てきません。浅野教授が、渡辺教授の定年延長をめぐり異議を申し立てた際、大学執行部は全学的な規定はないと断言。当時の社会学研究科長らも、各専攻で担当科目を決める中で定年延長するかどうかの判断をするという申し合わせしかないと回答しています。
院教授の定年延長審査に何の規定もないことは、大学の定年延長を所管している学事課長が繰り返し明言しています。同志社大学教職員組合と大学当局(村田晃嗣学長、吉田由紀雄事務局長=副学長=らが出席)と定年延長制度をめぐって三役折衝(団交)を行っていますが、村田学長は11月11日の折衝の場で、「各研究科でどういう判断でどういう基準で定年延長を決めているかについては、同志社大学では文書はなく、基準が明示されることはなかった。各研究科によって文字によらないある種のルールによって定年延長されているところを可視化し、他の研究科から見ても『こういう基準でやっているのか』と分かるように、文書化の作業をお願いし、今年8月までに、すべての研究科から文書を提出してもらった。研究科によって文言や表現の違いがあると思う。そこで、研究科横断的な作業ができるかどうか、大学評議会や研究科長会議などで議論しないといけないので、そこにようやく入ったというのが現状だ」(組合ニュースより)と表明しています。つまり、15年8月まで定年延長に関する学校法人同志社、同志社大学の全学的な規定は全くなく、審議を任された研究科にも明文規定がなかったことがはっきりしています。
冨田前研究科長(当時)は13年11月13日の社会学研究科委員会(院教授会、35人)で 浅野教授 の解雇を事実上決めた後、臨光館207番教室で、浅野教授 と支援者約10人の前で、「浅野先生のような(希望しているのに投票での採決になる)ケースは前例が全くない」「委員会の採決の方法は独断で私が決め実行した」「裁判になるのは覚悟している」と言っています。現役学生(現在3年生)を含む支援者が聞いています。つまり、浅野教授の定年延長を拒んだ社会学研究科委員会は、明文規定のない中で、冨田研究科長が小黒純メディア学専攻教授ら4教授(背後に渡辺武達教授=15年4月から名誉教授)と共謀して「前例がないので独断」(同13日夜に浅野教授の支援者、現役院生ら10人に表明)で強行採決したことが明白になったのです。
この裁判の動きを受けて、冨田氏の後任である埋橋孝文(うずはし・たかふみ)社会学研究課長・社会学部長(15年4月就任、社会福祉学専攻教授)が11月12日の「2015年度 第23回 部長会」で、「係争中の案件への対応のため、各研究科の定年延長手続きに係る規程等を提供してほしい」(教職員向けの部長会記録)と他研究科長に依頼しています。「係争中の案件」とは、浅野教授の本件裁判のことです。「各研究科の定年延長手続きに係る規程」が今出てきても、浅野教授の定年延長を不当な理由で拒んだ2013年度にフェアな規定など皆無であることを消すことはでいないでしょう。
●5教授相手の名誉毀損訴訟とのリンク
裁判がまた延びたのは残念ですが、原告側の主張に沿って順調に進んでいます。浅野教授は「今回の弁論期日の展開は、前回に続いて私のとってはうれしいことでした。判決が出るのがまた延びましたが、弁護団の先生たちの主張に沿って裁判官たちが動いてくれているので私は喜んでいます。今後は、定年延長を望み、指導している博士後期の院生も複数いたのに働く権利を奪われた例は同志社大学にはないことを証明すればいいのだと思う」と話しています。
今回の期日では、法廷に裁判所の警備の職員は一人もいませんでした。今回から警備を完全にやめたようです。
堀内裁判長が、原告の気持ちを完全に代弁、代理してくれているようで、支援会としては大歓迎の展開です。一方で、よもや 逆の結論を出すためのアリバイ的な訴訟指揮ではないことを祈るばかりです。5人裁判が京都地裁民事3部に移送されことも、この地位確認裁判にいい影響を与えているのではと思われます。5人裁判の裁判長は神山隆一裁判長です。神山裁判長は、佐賀地裁の裁判官の時、国営諫早湾干拓事業で有明海の漁場環境が悪化したとして、沿岸4県の漁業者が、南北排水門の常時開門などを求めた訴訟で、中・長期開門調査に当たる5年間の開門を命じ、完成した国の巨大プロジェクトに見直しを迫る歴史的司法判断を出しています。京都地裁などでも、そのほか、国や自治体、企業に厳しい判決を出しています。
●村田学長の再選なしも朗報
また、村田晃嗣学長が学長選で敗北したこと は、本裁判にとって大きな影響を与えるでしょう。 16年4月に就任する松岡敬・新学長の執行部では吉田由紀雄事務局長(副学長)、中村伸也学長庶務課長らの更迭は必至です。村田執行部は来年3月末までレイムダック状態になります。村田体制を悪用して浅野教授を完全追放しようとした小黒教授ら4人は困っているでしょう。
村田学長は11月11日の組合との折衝でも元気がなく、「定年延長のことも、私は今年度に終わりなので、何もできない」と言ったそうです。
松岡次期学長(理工学部教授)は浅野教授 が支持してきた八田英二前学長(現在、高野連会長)の時に長く副学長を務めていました。定年延長問題でも、松岡氏が所属する理工学部は、同じ学科の教員を外した業績審査委員会で公正な審査をしています。松岡氏は差別的な定年延長制度を改革し、特別任用教授制度を導入しました。特任教授制度は理工学部だけが受け入れていますが、条件のいい定年延長制度と併用されているため、まだ誰も使っていません。また、松岡氏は村田学長の国会公述に反対して同志社大学教職員有志が7月15日に出した声明に賛同している。90人が署名しましたが、理工学部では松岡氏一人でした。メディア学科の教員8人は賛同していません。学内の新自由主義者が支えてきた村田氏の落選は浅野教授の起こした二つの裁判にいい影響を及ぼすでしょう。新執行部の英断さ えあれば、裁判とは別に、浅野教授が担当し2年連続休講になっている院と学部の8科目を再開することもあり得ると思われます。65歳で「定年退職」した教員は70歳までであれば、嘱託講師ですぐに採用できます。現役の学生たちが、浅野教授の休講科目の開講を求める署名活動を展開しています。松岡新学長が学生の声に耳を傾けてくれれば、浅野教授が16年4月から教壇に復帰できます。学生たちは、市民の署名も集めています。このHPに署名の案内文が載っています。ぜひ協力ください。
●裁判長に情報開示迫られ、追い込まれる被告側
弁論終了後、弁護士3人が傍聴した支援者に、「裁判官は定年延長が希望するすべての院教授に認められてきたかどうかに 強い関心を持っている。裁判官たちは、代理人を警備していたことについても問題があったと分かったようだ」などと報告してくれました。
傍聴した法律学科の学生は「何回も傍聴して思うことですが、大学院教授の定年延長の実態を調査する必要はだいぶ前から争点になっているはずだが、被告の学校法人同志社側は情報を開示する努力を全くしていないように思います。浅野先生のように、博論を書いている院生が複数おり、70歳まで働きたいという院教授を、仲間の教授たちがクビ にするというような例が過去にあったかどうかすぐに分かるはずです。情報開示はこんなに時間がかかるものなのでしょうか。訴訟を長引かせるためにダラダラやっているという印象を免れないと感じます」と話しています。
一般市民の支援者は次のような見解を寄せています。
〔 5日の裁判を傍聴して、四つの理由で、被告側がかなり追い込まれ、原告に有利に動いていると考えます。①堀内裁判長が「一般的に学内でどうゆう流れで、定年延長が決定されているのか、社会学研究科以外の学部も数例あげる様に、被告側の小國弁護士に指示された。小国弁護士は、これ以上の提出は考えていなかったようで、困った様子だった。(今まで研究科の会議で、定年延長の採決をされた事例がない、又その議事録等もなさそう。)②提出されている表(乙58号証)は、大学院教授は、70歳定年が前提となっていることを本当は示している。そこで、被告側はこのことがわからない様に小細工をしているので記号や黒塗りをしている。またそもそもこの原簿を出したくない意思があった。③渡辺名誉教授が裁判で浅野先生に敗訴した敵討ちのため、そのグループが、浅野先生の排除を狙って、今まで前例のない「研究科の教授の会議」で怪文書を使って採決をした。④その怪文書を作成した渡辺教授グループを原告が名誉棄損で訴えている。裁判長が大学院教授の定年延長の実態を理解される程、被告側は、不利になって来ているので、「浅野先生の復帰阻止」を目的に裁判の引き延ばしを図りに来ているのではないかと心配しています。また、村田学長が退陣することも何らかの形で浅野先生に有利になるのではないかと思います。新学長に、二つの裁判のことを知っていただき、一日も早く浅野先生の復帰を新学長が判断いただける方法がないのかと一市民として思います。 〕 (了)