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裁判長が被告に原資料院教授の姓名開示を指示
浅野教授の地位確認訴訟・第9回弁論――次回は11月5日(木)

※本記事の掲載が遅れ、浅野先生・支援者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。

●院教授の定年延長は制度ではないとする「資料」の氏名開示を指示

 浅野健一・同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻博士後期課程教授が学校法人同志社(水谷誠理事長)を相手取って2014年2月提訴した「従業員地位確認等請求訴訟」=平成26年(ワ)第310号=の第9回口頭弁論が9月10日午前10時から約10分、京都地裁(第6民事部)208号法廷で開かれました。担当裁判官は堀内照美判事=第6民事部総括判事、髙松みどり判事、渡邊毅裕判事補。傍聴した支援者の報告をもとに支援会事務局から報告します。

  被告側代理人の小國隆輔、多田真央両弁護士は7月17日付の準備書面(3)を陳述、乙57号証、7月17日付の証拠説明書を提出しました。原告側代理人の武村二三夫、平方かおる、小原健司各弁護士が8月11日付の第7準備書面を陳述しました。
武村弁護士は「最初に乙55で院教授の定年延長対象者の数字だけの表を出してきて、その後、乙57が提出されたが、さらに原資料があると当方は考えている。提出された資料では、キリスト教主義の同志社大学ではあり得ないことだが、平成などの元号で記載されている。正規の資料を出してほしい。仮に原資料を提出できないとすれば、乙57にある院教授の氏名や生年月日など消されている部分を明らかにしてもらわないと、当方としては正確性の確認すらできない。大学の教授の氏名はいろんなところで公表されている」と述べました。これに対し、小國弁護士は「現時点でこれ以上の提出は考えていない」と答えました。

  武村弁護士はまた、「資料にある教授の名前が出ると問題と言うなら、民事訴訟法で認められている閲覧制限を申し立てれば、当事者以外には開示されないので、そうすればいいのではないか」と質問。小國弁護士は「そもそも、この件が閲覧制限の対象に当たるかどうか分からない」と答えました。制限対象になるかどうか不安なら、制限を申し立てればいいのです。
このやりとりを聞いていた堀内裁判長は「生年月日はともかく、せめて氏名だけでも出せないか。大学教授の氏名なのだし」と発言しました。小國弁護士はしばらく考えて、「検討する」と回答しました。

  裁判長は小國弁護士に「どのくらい時間が必要か」と尋ね、小國弁護士は「1カ月ぐらい」と答え、裁判長は「それでは書証提出期限を10月9日までとする」と通告しました。

  次回の第10回口頭弁論期日は11月5日(木)午前10時、京都地裁208法廷となりました。

 浅野教授の支援者は、同志社大学4年生、浅野ゼミ卒業生の父親、私大教授、市民ら7人が傍聴しました。被告側は、冨田安信・前同志社大学大学院社会学研究科長(社会学研究科産業関係学専攻教授)、松隈佳之・社会学研究科・社会学部事務長の二人が傍聴しました。二人の職務内容に、「学校法人同志社と社員の雇用問題」は全くないはずで、勤務時間中にこの裁判を毎回のように傍聴するのは不思議なことです。もし、自分が長を務める研究科・学部の教職員が解雇されそうになったら、その人をまず守るのが二人の仕事ではないでしょうか。

  武村弁護士は閉廷後、書記官に「前に法廷警備について要望書を出したが、それで警備がなくなったのか」と聞き、書記官は「この裁判体ではなく、裁判所として決めたことだ」と弁明したといいます。すぐ後ろに、裁判官3人が、次の訴訟のため、座っていたので聞いていたということです。

  この日の法廷には、冨田・松隈両氏のすぐ後ろにスーツ姿の男性が座っていました。裁判終了後、浅野教授が廊下で男性に「失礼ですが、裁判所の方ですか」と聞いたところ、「はい、裁判所の者です」と回答。続けて、「お名前を聞いていいですか」と尋ねると、「杉村と言います」と浅野教授に答えました。「警備ですか」と聞くと「はい」と答えました。浅野教授は「法廷内を警備するなら、原告側の私や傍聴者も守ってほしい。被告側傍聴人にぴったり付いて座っているのは不公平ではないか」と言うと、「受けたまりました」と言ったそうです。

  この男性は、前回の第八回期日でも、二人にぴったり付いて傍聴していました。

  武村弁護士は「その職員は法廷への出入りの際は、被告代理人・傍聴者にくっついて動いていない」と話しています。

●原告代理人が裁判所の適切な指示を歓迎

 口頭弁論終了後、武村弁護士が傍聴した支援者にこの日の弁論について、「裁判官が原資料と称する被告の文書で黒塗りになっている教授の氏名を開示するように求めたのは、こちら側の主張に沿った指示でありがたい。当方に有利に進んでいると思われるが、改めて気を引き締めてやっていきたい。被告側がきちんと出すかどうかは不明だが、出てきたら、調査の上、反論したい。

 11月にもう一度期日が入り、浅野教授らの証人尋問は来年に持ち込まれることになった。定年延長はすべての院教授に認められた制度だということを証明していきたい」と報告しました。

  武村弁護士は法廷の警備がほとんどなくなったことについて、「(共同通信記者の)中島啓明さんが週刊金曜日に書いてくれたこともあって、明らかな警備はなくなった。浅野先生が見たという裁判所職員も、開廷前、被告代理人・傍聴者に付き添っておらず、被告側を守るという感じではなかった。私たち代理人は5月に文書で過剰警備の改善を求める文書を裁判所に出したので、裁判所も気にしているのではないか」と述べました。

  武村弁護士は「民事裁判の弁論は短いので傍聴者には申し訳ない。しかし、裁判官は、傍聴者がいつも多数来てくれているのを見ている。傍聴者の存在は、浅野先生に大きな力にもなるので、次回も傍聴をお願いしたい」と話しました。

  支援者からは「被告側が出したデータを使えば、定年延長がすべての院教授に適用されていることが分かり、この裁判に勝てると思う」「浅野先生が指導していた博士後期課程の矢内真理子さんが、浅野先生がいなくなって、本当に困っていないのかを究明するのが大事だ」「13年10月30日の研究科委員会でひどい文書を配った4教授と渡辺武達教授の5人を提訴した名誉棄損裁判と連携して裁判を進めてほしい」「審理がさらに長期化したが、被告主張の矛盾をついてぜひ勝ってほしい」という声がありました。
同志社大学の現役学生は傍聴した感想を次のように述べています。
「開廷前に前社会学部長の富田氏が裁判所職員と連れだって入廷してきた。そもそも裁判所職員がなぜ訴訟の一方の当事者である富田氏だけ警護するように寄り添っていたのかわからない。開廷と同時に裁判官に向かって一礼するよくわからない慣習があるが、富田氏はあまり慣れていないのかそれとも気が動転していたのか、立ち上がらず、一礼もしなかった。裁判自体は極めて早く終わった。しかし同志社側の対応は理解に苦しむものだった。同志社側は被告として過去文系の大学院教授の定年延長がどのように行われ審議されたか個別具体的に示さなければならないが、同志社側の代理人は各教授の氏名を公表できないと言った。現に現役の教授はインターネット上で名前が公表されているし、過去どのような大学院教授が教鞭をとったかはインターネット上でも調べられるような程度の情報ではないのか。秘匿する必要が全く感じられない。また調べようとすれば大学側にしてみればさほど時間をかけずにすんだ手続きである。同志社側の答弁は不可解だった。時間稼ぎと思われても仕方がないように感じた」

  学生はまた、「浅野教授の科目が大学院も学部も休講になったままになっている。浅野教授の授業がなくなって困っている学生は多数いる。大学に対し、浅野教授の授業をこの秋期(10月開始)に開講するよう求める要望書を提出した」と語りました。

  支援者の市民は「被告が出した『院教授の定年延長対象者の数字だけの表(氏名等黒塗り)』に付いて、竹村弁護士が、裁判官たちに、傍聴者にも分かるように、欠陥があることをアピールされ、堀内裁判長の「生年月日はともかく、せめて氏名だけでも出せないか。大学教授の氏名なのだし」と発言したのに対して、小國弁護士がしばらく考え、『検討する』と返答したのが印象に残った。これらのやり取りでは、裁判所がこちらの方へ有利に傾いている様に思えるが、 被告側の主張をきちんとつぶす必要がある。浅野先生に対して、悪意のある人物(渡辺元教授側が二つの名誉毀損裁判で敗訴した敵討ちのため)が、当然認められる定年延長を『怪文書等』を使って妨害したことを強くアピールする必要があると思う。このためには、10・30配付文書(怪文書)5人を相手取った名誉棄損裁判と連携することがより有利になると私は考える」と話しています。 
  「公開の裁判なのに、裁判長や被告代理人の声はほとんど聞こえないほど小さい裁判所は傍聴者の市民のことをもう少し考えるべきではないか」と言う声も傍聴者からありました。

●同僚教員が教授の解雇を決めることができるのか

 浅野教授は「本日の弁論期日で、裁判長が被告代理人に、『生年月日はともかく、氏名は出せるのではないか』と促したのは大きな前進だ。裁判所にこれだけ言われた以上、被告側は氏名だけでなく、研究科名も10月9日までに、明らかにしないわけにはいかないだろう。研究科名が分からないと、検証作業がやや困難になる。特に理工学研究科(数年前から研究科全体で、定年延長の可否について専攻スタッフを外して審査機関を設け、審査している)のケースは、文系研究科とかなり違うので、絶対に必要だ。研究科名と65歳になった院教授名が明らかにされれば、『定年延長にならなかった院教授』を研究科別に一覧をつくり、すべてが『自己都合』で、定年延長を希望したのに、研究科・理事会で拒否された例はないことを証明できると思います。この作業はそう難しくありません。被告側が、『希望したけど、不良教授などを理由に拒否された院教授』のケースを示さなければなりません」と語りました。

  浅野教授はまた「小國代理人らは、専攻教員4人の密室決議、研究科委員会の無記名投票採決で私の定年延長は拒否されたと主張し、その一方で、定年延長は理事会の審議・決定事項であり、理事会で決まった院教授に対して時間割表と出稿案内を送付することをもって、法人から院教授への定年延長の申し出とし、それに対して特段の異議申し出のない場合は、定年延長を了承したと解するという主張をしている。この二つの主張の整合性はないと私は思う」と述べました。浅野教授は原告として、さらに次のように話しました。

  「就業規則によると、学校法人が院教授の定年延長を『必要』とするかどうかを理事会が決めるとなっている。これが当該教授の定年延長可否を決める唯一の基準だ。ならば、『法人が必要としているか否か』をなせ、個別の専攻・研究科の会議(同僚教員で構成)で決めることができるのか、村田晃嗣学長は『院教授の定年延長は研究科で審議する事項』と断定し、大学執行部は関与しない、審議しないとしているのは適切か、などが問われると思う。そもそも、法人と院教授の間の雇用関係を、なぜ研究科が決めるのか、それは研究科長の仕事なのかを追及すべきだと思う。私は冨田研究科長に雇われていないし、私が属する専攻・研究科の同僚に私の『定年延長』の可否を決める権利はないと思う。学校法人同志社にとって「必要」とする院教授かどうかを、メディア学専攻の同僚4人、社会学研究科の35人(浅野を含む)だけの判断に委ねるのは、手続き上無理がある。
法人は、理事会決定(14年2月21日)で定年延長の雇用契約が結ばれることになると主張しているが、冨田研究科長は『定年延長に関する研究科決定が理事会で覆ることはこれまでない』と主張し、13年11月15日から『14年度に浅野はいない』という前提で様々な大学での浅野抹消・完全追放=矢内真理子氏らの指導教授の強引な変更手続きの開始、3年ゼミ生への解体工作開始含む=を理事会審議の3か月前から強行してきたこととの矛盾がある。研究科で定年延長なしと決定された私のような院教授は、学事課から名前が理事会に上がらないので、「必要か否か」の審議の対象にならないという制度の不備がある。その不備を悪用したのが渡辺グループと冨田研究科長である。『研究科で定年延長の可否を審議し、否決するなどという前例がない』ので、悪用したのだ。被告側が再三持ち出している院ビジネス研究科(BS研究科)のQ教授の場合(2回目の定年延長)は、研究科で議案になっていない。私のケースは、同大院で、初めて、研究科で、院教授の定年延長の可否を審議したのだ。また、その際に私を誹謗中傷する怪文書を配布して、私を不良教授と非難したのである」
「研究科や専攻は、教育研究のための組織で、私を解雇する決定をできるはずがない。共同通信編集局社会部の部会で、記者の解雇は不可能だ。せいぜい、定年延長を認めるべきではないという意見を理事会に学事課長をとおしてあげることは、望ましくないことだが、手続き的に可能だろう。研究科で、否決すると、理事会には審議対象にならないという慣行(村田晃嗣学長が13年12月9日、定年延長は各研究科の審議事項で大学執行部は関知しないと断言)があるのは、まさに、研究科で否決するという事態を想定していないのである。

  繰り返すが、被告代理人は、定年延長は理事会で決めること、定年延長の院教授への打診は同年3月20日過ぎに各教員(嘱託講師含む計約2000人)に送付する個人時間割表・出稿案内で行っている、何も返答がない場合は延長の意思があると解すると主張している。そうであるなら、13年10月25日の4人による密室の会議での決定、11月13日の無記名投票による研究科委員会採決は、私自身の定年延長の意思確認を経ずに行われたということになる。
法人から、私に定年延長を望むかどうか、今まで一度も聞かれていない。『臨時専攻会議』決定を小黒純教授から通知された13年10月29日午前10時以降、その不当性を主張してきたし、学科と専攻の会議で、13年10月16日までに、14年度における院と学部の私の計10科目の授業が決定し、冨田安信研究科長・学部長に提出されていたから、私の定年延長は当然だと断定していた。しかし、その時点では、学校法人同志社への正式な定年延長(雇用延長)の申し出の手続きは、全くなかった。人報連会員の会社員が最近、東京地裁に起こした損害賠償請求訴訟(入試不合格訴訟)で、小國代理人は、定年延長は2月の理事会で決まるので、入試があった13年11月末の段階では何も決まっていないと主張している」

 原告側が承認申請している庄司俊作・同志社大学人文科学研究所教授は次のような見解を示しています。

  〔 10日の口頭弁論に関連して、新たに次の点も求釈明を行うべきだと思う。①氏名等とともに、浅野先生のようなケース、つまり、研究科委員会において定年延長の可否について審議し、その結果、定年延長を否決した事例を特定すること(被告は書面で20%以上あると主張している)。②そのすべてについて、研究科委員会の記録を提出させること(大学の教員組織ではどの会議体も記録を残している。特に教授会や研究科委員会の人事事項に関して、審議とボートによる決定を行っているにもかかわらず、結果の記録がないなどということはありえない)。

  また、富田研究科長の陳述書では、「浅野不良教授論」を吹聴し、社会学研究科委員会において浅野先生の定年延長を否決したことを正当化するような主張を行っている。裁判所がこの主張を受け入れることはないと思うが、富田氏陳述書の提出という新たな局面を踏まえ、次の主張を行うべきだ。

1.定年延長が事実上、制度化しているというこちらの主張は裁判所によって受け入れられないことはまずないと考えている。事実上の定年延長の制度化ということは、すなわち浅野先生のケースは実質的に「解雇」に当たるということだ。

2.その上で、富田陳述書で挙げられている「浅野不良教授論」の根拠については事実かどうかはともかくとして、仮に事実であったとしても、いずれも定年延長を否決する理由、つまり解雇の事由には当たらないと思う。大学教員の解雇は一般的に刑事事件や研究の悪質な盗作、悪質なセクハラ、科研費など公費の不正使用に限られます(同僚へのメール発信や期末試験時の出張、「御用組合」等の表現などで解雇に値する不良教授などとされたら、大学教員もそれこそ身が持たない)。

これからの裁判では、浅野教授のように、定年延長を希望している院教授の中で、研究科委員会で定年延長の可否を審議し否決した例があるかが重要です。裁判長も、原告がないと主張していることの、審議を確かめたいと考えているのだと思います。

証人候補の冨田研究科長は、労働経済、雇用問題が専門らしいので、研究科や専攻で大学教授の解雇を決めることができるかどうか、証言してもらいたいものです。