地位保全裁判の概要 - 「人権と報道・連絡会ニュース」2014年1月号より
人権と報道・連絡会の世話人である浅野健一さん(同志社大学社会学研究科メディア学専攻教授)は昨年12月27日、「従業員地位保全等仮処分命令申立書」を京都地裁に提出した。1月定例会で、これについて浅野さんが参加者に支援を訴えた。
同志社大学メディア学専攻で昨年秋から、浅野さんの定年延長を阻止しようと、さまざまな工作が続けられてきた。同大では浅野さんに対し05年11月の『週刊文春』を使った「セクハラ疑惑」でっち上げなどさまざまな攻撃が繰り返されている。浅野さんはそれと粘り強く闘い、対文春訴訟で全面的に勝利、「セクハラ疑惑」を作って文春に垂れ込んだ同僚の渡辺武達教授に対する名誉毀損訴訟にも勝訴した。今回の「定年延長妨害」は、その延長線上にある。
人報連では、対文春訴訟以来、浅野さんに対する攻撃を「原則的なメディア批判を続ける浅野さんを大学から追放しようとする策動」として支援してきた。今回の攻撃は、浅野ゼミの学生・院生の「教育を受ける権利」の侵害でもある。浅野さんが大学に残れるよう、皆さんの支援を訴える。以下は例会での浅野さんの訴えの概要。(山口正紀)
◆突然の「クビ」通告
同志社大学は65歳で定年ということになっています。ただ、大学院で教えている教授については1年ずつ、70歳まで延ばせる定年延長制度があります。これまで延長を希望して拒否されたという人はほとんどいません。私も延長を希望して、当然延長になるものと思っていました。
ところが昨年10月25日、同僚のメディア学専攻教員4人が突然、「浅野の定年延長を社会学研究科委員会に提案しない」、つまり私をクビにすると決めた。
研究科委員会というのは大学院教授会にあたる組織で、35人教授がいます。その10月30日と11月13日の委員会で投票で採決した。委員会には四つの専攻があるのですが、「メディア学専攻の4人が延長に反対している」となると、他の専攻の教授は賛成・反対が言いにくい。ほとんど白票だったそうです。
そうして「定年延長には3分の2の賛成が必要」として、私の定年延長を否決したという。こんな3分の2の賛成などというルールは何もないのです。そもそも定年延長はほぼ自動的に延長されてきたからです。
◆人格攻撃の怪文書を配布
しかも10月30日の審議の時、メディア学専攻の教授たちは「浅野教授 定年延長の件 検討事項」という文書を配った。「浅野がいかにひどい人物か」をA4判2枚に書いたものです。この投票は自分の人事なので、私は出席できない。待っていたら、「否決されました」と言って、この文書を見せられました。
文書は研究面、教育面、学内業務面、職場環境面で「問題がある」と書いています。研究面では「本学外の学会で認められた論文はない」と。確かに大学の紀要などの論文はそう多くないですが、いろんな本、論文を書いていて、著書は50冊以上あります。その著書を「運動のためのもので研究ではない」と非難し、雑誌記事には「大学院教授としての品位に欠ける表現がある」と。「メディア御用学者」とか「デマ」という言葉を使ってはいかん、というのです。
教育面では「院生・学生本位の教育がなされていない」というのですが、メディア学科で博士号をとった8人のうち、4人は私が指導しました。学内業務面では「期末試験に立ち会わなかった」などと攻撃していますが、朝鮮民主主義人民共和国の招待を受けて、きちんと届け出たうえで出張したものです。何の問題も起きていません。
いちばんひどいのは、私がいることで「教員は強いストレスにさらされ、恐怖感によって突発性難聴や帯状疱疹を発症した」と。帯状疱疹の原因はストレスではない。〈浅野はウイルスだ〉と言ったようなもので、明白な人格攻撃の表現です。
この文書は日付も作成者の名前もない、まさに怪文書です。これを唯一の討議資料に投票され、定年延長が否決された。完全な名誉毀損です。時効は3年なので対応を考えます。書いたのは専攻の4人しかいません。
◆学生たちが定年延長を要望
私は何とか大学に残ろうと、村田晃嗣学長に「事態を正してほしい」と要請しました。教職員組合、学生たちも嘆願書を出してくれ、このことを知った市民も学長に、NHK「八重の桜」を引用して「定年延長なしの撤回を」と申し入れてくれました。
同志社の建学精神はリベラリズムと国際主義です。人民の大学であって、エリートを育てるのではなく、民主主義の種をまく人を育てる。私は19年半の間、そういう気持ちで教育・研究活動に携わってきた。あと5年間、がんばろうと思っています。
ゼミには院生が3人います。インドネシアから奨学金で来ている人、福島原発事故報道を研究し、日本学術振興会の研究費助成を受けている人もいる。4月にはロシアから日本政府の奨学金を受けた人が来ます。
全国の受験生に配布されている2014年度版大学案内には、私と、ゼミの卒業生で毎日放送に入った人の写真が出ています。それを見て来る受験生がいる。もし定年延長がなかったら、偽装広告になります。定年延長を認めないのなら、大学案内の訂正をHPに載せるべきです。
浅野ゼミ3回生が、「来年度『履修の手引き』から浅野先生の名前抹消の中止を」という要望書を冨田安信社会学部長に出しました。それに対して冨田さんは「安心して、しっかりと期末試験、就職活動などに取り組んでください」と返事しました。ゼミで2年間、「憲法とメディア」をテーマに継続研究する学生たちに、心配せず就職活動をやれ、と言っているのです。
◆背後に渡辺教授の嫌がらせ
「もう、どうしようもない」と思って、京都地裁に地位保全の仮処分を申し立てました。
私の定年延長を否定する一方、渡辺教授の5回目の延長は投票もなく決まりました。文春裁判と渡辺裁判で、裁判所は文春・渡辺教授の名誉毀損を認めました。これを受けて、私は大学のキャンパス・ハラスメント委員会に被害を訴え、調査が始まっています。今月14日には、そのヒアリングも行われます。
私は二つの裁判で勝ち、渡辺教授は負けた。なのに、勝った私が大学を追われる。裁判で負けた人が嫌がらせしてきた。それがこの問題の根っこにあります。怪文書にも渡辺教授しか知らないこと、彼が裁判で主張してきたことがたくさん書いてある。今度の裁判で明らかになると思いますが、渡辺教授が背後にいることは間違いない。
4月からも何とか同志社に残れるよう頑張りたい。この裁判は、私の労働権を守る闘いですが、それだけでなく、「浅野ゼミで教育を受けたい」という学生たちの権利を守る闘いでもあります。それを裁判所がどこまで理解してくれるか。皆さん、支援をよろしくお願いします。