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『救援』2010年4月号
「週刊文春」の事実無根の記事によって名誉を毀損されたとして、同志社大学の浅野健一教授が文藝春秋など四者に対して損害賠償などを求めた訴訟で、最高裁判所第三小法廷(田原睦夫裁判長裁判官ら五人)は三月一六日付で、原告・被告の双方に対し、「裁判官全員一致で、受理すべきものとは認められないと判断し、本件を上告審として受理しない」と決定した。
これにより、〇九年五月一五日に大阪高等裁判所第九民事部(松本哲泓=てつおう=裁判長)が文春側に五五〇万円(京都地裁判決は二七五万円)の支払いを命じた判決が確定した。文春が〇五年一一月二四日号で書いた記事は虚偽であることが確定した。一個人の一度だけの記事掲載での名誉毀損訴訟で五〇〇万円以上の損害賠償金命令が出るのは極めて珍しい。
また、浅野教授代理人である若松芳也・小原健司両弁護士が三月二七日、文春に対し、文春HP上の問題記事の見出しの削除を要請する配達証明郵便を送ったのに対して、文春はすみやかに削除に応じた。文春代理人である喜田村弁護士が、三月三〇日午前、若松弁護士へ送ったファクス文書「三月二七日付け『書類送付及び抗議書』の件」には、「株式会社文藝春秋では、ホームページ見出しから、浅野健一教授その他同氏を特定する記載を削除いたしました」とあった。文春の「実名削除」は、文春が問題記事は誤りと認めたと解釈でき、記事自体を訂正・削除したに等しい。ネット上の人権侵害について、捜査当局や裁判所が最近厳しい姿勢で臨んでいることも影響していると思われる。文春記事をそのまま貼り付けて浅野教授を不当に非難しているサイトなどは、文春の削除措置を受け困惑しているはずだ。浅野教授は違法サイトに法的措置をとる方針だ。
また、文春は三月二七日、賠償金を年五分の利子付きで浅野教授へ支払った。〇六年一月から始まり、四年二カ月に及んだ浅野教授の対文春裁判闘争は、浅野教授の全面勝利で幕を閉じた。
報道機関は三月一九日、「浅野健一氏の勝訴確定 最高裁、上告受理せず」(『朝日新聞』三月一九日付)などと報じた。ところが毎日新聞(東京)は短い記事の中で《高裁判決はセクハラは否定する一方、アカハラを真実と認めた》と書いた。毎日新聞は一審判決(〇八年二月二七日)の際も、翌日付西部本社朝刊で「教授のセクハラ 一部真実と認定」というとんでもない見出しをつけたが、いまだに訂正謝罪を拒んでいる。浅野教授は毎日を提訴することを検討している。
同大CH委員会が審理開催を通知
最高裁の決定後、同志社大学キャンパス・ハラスメント防止に関する委員会(以下、CH委)にも新たな動きがあった。三月二七日、岡本博公・同志社大学倫理審査室長から、若松弁護士のもとに届いた浅野教授宛の文書によると、CH委が委員会開催を決めた。これは、若松弁護士が三月一七日に、文春の勝訴確定をCH委に通知し、委員会の審理を求めたのに対する回答。CH委は、浅野教授が〇三年九月から被申立人となっている件を文春提訴(〇六年一月)後四年三カ月も放置しており、浅野教授はこれを明らかな人権侵害として再三に渡って早く結論を出すように求めていた。
CH委は、裁判で係争中のためという理由で、一・二審で浅野教授が勝訴した後も結論を出さず「静観」してきたが、最高裁で浅野教授の全面勝訴が確定した今、CH委は早急に、大量のcH委情報などを文春などメディアに垂れ込んだ「渡辺グループ」による虚偽の申立て内容を棄却するのが妥当である。また、このような虚偽事実を申し立て学外にリークした「渡辺グループ」に対し、大学側はなんらかの処分をすべきだろう。・ライバル・の教授を闇討ちするためCH委員会へ虚偽情報を垂れ込むことによって引き起こされる「ハラスメント冤罪」を今後防止するためにも必要な措置であると考えられる。
浅野教授の対渡辺裁判にも影響の可能性
浅野教授が〇九年九月二日、文春記事の「キーパーソン」である渡辺教授を相手取り、三八五〇万円の損害賠償を求め東京地裁(民事第七部、山崎勉裁判長)に起こした訴訟(以下、渡辺裁判)にも、文春裁判の浅野教授勝訴確定は、確実に影響を与えると考えられる。渡辺裁判の第二回期日は、三月五日午前一一時から、弁論準備手続(電話会議)として同部準備室で行われた。書面の陳述および書証提出の後、双方の求釈明についてやりとりがかわされた。
渡辺教授の代理人である池上弁護士は「原告(浅野教授)側は被告(渡辺教授)が文春に情報提供したことで文春の取材が始まったと主張しているが、その根拠は何かについてこちらは釈明を求めたのに、原告側は準備書面に書いてないので、裁判所から釈明するように言ってほしい」と発言した。池上氏は《強気》だ。これに対して原告代理人は「釈明事項というよりも、これらの事項に関する具体的な主張・立証が原告の課題であることは承知しているので、次回までに主張を準備する予定だ」と答えた。また、山崎裁判長の異動に伴い、三月末で裁判長が交代することが明らかになった。
渡辺裁判における被告の不法行為は、被告が「ハラスメント」の数々を捏造し、ガセネタを文春に情報提供したことが中心である。渡辺教授は答弁書などで加害性を自白している。文春裁判における浅野教授の全面勝利により、自らが撒いた種だが、被告・渡辺教授はますます追い詰められてきた。 (三津奈聡)