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『救援』2010年2月号
浅野健一・同志社大学社会学部教授が、同大の同僚であり、文春記事の主要情報提供者でもある渡辺武達教授を相手取り、三八五〇万円の損害賠償を求めている裁判で、第一回期日が一月一八日午前、東京地裁民事第七部(山崎勉裁判長)で弁論準備手続(電話会議)という形で行われた。山崎裁判長と岩田真吾裁判官(左陪席)、佐原康男書記官が出席した。原告側からは、原告・浅野教授のほか、原告代理人である弘中惇一郎、品川潤、山縣敦彦各弁護士と、文春裁判から引き続き代理人を務める小原健司弁護士が出席した。また浅野教授の支援者ら数人が裁判所の許可を得て傍聴した。
佐原書記官が午前一一時、被告側代理人の池上哲朗、拾井美香両弁護士が所属する京都総合法律事務所に電話をし、数分待たされた後、拾井弁護士が応答して手続きが始まった。拾井弁護士は横に池上弁護士も同席しているとの説明をしたが、最後まで一人で対応した。被告の渡辺教授がいたかどうかは不明だ。
まず双方の提出書類の確認(陳述)が行われた。原告側は〇九年九月二日付で提出した訴状、一一月二日付の証拠説明書、証拠として甲一~十五号証を陳述。被告側は〇九年一一月五日付の答弁書のほか、答弁書の認否留保部分を補充するため一月一二日付で「第一準備書面」を提出している。
同準備書面は答弁書で認否を留保した部分についてのみとはいえ、わずか二頁。山崎裁判長も「短いですが」と敢えて発言したほど内容がないが、渡辺教授が原告の人権を侵害するメールを、当時原告の指導下にあった留学生にも送ったことを自白する内容もある。
被告側からは、この時点までに乙一・二号証が提出されていた。これは京都地裁への移送申立を巡って提出された、被告の住民票などであった。裁判長から「本訴そのものの内容には必ずしも関連しないようだが」と尋ねられ、拾井弁護士は「移送をめぐるやりとりの資料に過ぎなかった」と答えた。この二点の書証は移送申立文書の資料限りということになり、本訴の乙号証は今後被告が改めて乙第一号証から提出を検討することとなった。
弘中弁護士は「支援者への裁判審理公開の観点などから、なるべく法廷での弁論への手続移行を行ってほしい」と要望した。しかし、拾井弁護士は「当面の間、争点整理は電話会議を希望」と表明。裁判所も移送申立を却下した際の理由として電話会議を利用できる旨を挙げていた経緯があったことなどから、次回も弁論準備・電話会議となった。
被告側が求めていた求釈明について、弘中弁護士は「全て釈明すべきかどうかは不明だが、できる限り釈明する」と述べ、原告側は二月末までに求釈明に答える準備書面を提出することになった。この日の弁論手続は午前一一時一三分に終了。次回期日は三月五日(金)午前一一時からと決まった。
浅野支援会(HP:http://www.support-asano.net)では、渡辺裁判について、「『渡辺グループ』の引き続く人権侵害行動に対し、もはや渡辺氏自身の『法的責任』を問うしかないというギリギリの地点から行われた決断」(山口正紀事務局長)と認識している。
原告側は、渡辺教授による文春への情報提供行為自体が重大な人権侵害であることと、被告側が答弁書などで、文春だけでなく毎日新聞が渡辺教授と《被害者》らに取材を依頼してきたと主張していることを重視し、一体誰が情報を毎日新聞に漏洩したかを追及していく方針だ。
被告側は答弁書で、同大セクハラ委員会の迅速な審理を促すため、他の学科教員と共にメディアに情報提供したと主張している。しかし、セクハラ委員会は被害の申立内容に誤解がある場合があるなどセンシティブなことなので、慎重な扱いを要請しているのに、審理中の事案に関し、一方的な立場に立って、週刊誌を使って被申立人を非難することが「公益」であるはずがない。
しかも渡辺教授はメディア研究者で、「メディアリテラシー」を専門分野と自称しており、週刊誌に書かせる効果(影響)も分かっていた。本裁判で、渡辺教授の不法行為が、メディア学者としては絶対にやってはいけないことであることを明らかにしていくことになる。
(三津奈悟)