「週刊文春」〇五年十一月二十四日号記事《「人権擁護派」浅野健一同志社大教授 「学内セクハラ」を被害者が告発!》をめぐる名誉毀損訴訟で京都地裁が二月、原告・浅野さんの訴えを大筋で認め、被告・「文春」側に賠償を命じる判決を言い渡した。判決概要は、『救援』第467号で三津奈悟氏が紹介している。私は「浅野教授の文春裁判を支援する会」事務局長の立場から、この判決の意義を述べたい。
「週刊文春」は一九五九年、出版社系の週刊誌としてスタート。「週刊新潮」とともに「新聞が書かない」を売り物に、人権侵害報道で読者の関心を煽り、部数を伸ばしてきた。その主要な柱が、プライバシー侵害と「疑惑」報道だ。
たとえば、少年事件報道。新聞・テレビは「少年法を守る」建前から、少年を特定する記述は抑制する。「文春」は「新聞が書かない」と銘打って読者の関心を煽り、「少年法違反」承知で実名・プライバシーを書く。八九年「女子高生コンクリート殺人事件」では、「野獣に人権はない」として少年四人の実名を報道、少年法を真っ向から踏みにじった。
「文春」は、その興味本位な報道姿勢で事件被害者も傷つけてきた。九九年一一月の東京・文京区女児殺害事件では、被害女児の母親に原因があるかのように報道。〇一年一月、新潟県柏崎市で監禁されていた女性が保護された事件では、《新聞がとても書けない「少女」と「男」と「母親」の関係》と題した記事で、被害者のプライバシーを興味本位に暴き立てた。
性暴力事件では読者の「性的関心」に媚び、被害者の傷口を広げる。その典型が沖縄の米兵レイプ事件。九五年九月の事件では、《レイプ米兵三人「獣のような仕業」》の見出しで、犯行を生々しく再現し、事件現場の写真を掲載。〇一年七月の事件でも、《レイプ目撃証言入手!沖縄女性暴行事件 地元紙が書かない「告発の行方」的全真相》のタイトルで被害女性を傷つけた。
それ以上に、「文春」が売り上げを増やす手段としてきたのが、八四年「ロス疑惑」以来の「疑惑」報道だ。
新聞・テレビは警察情報に依存し、逮捕段階で実名・犯人視報道を繰り広げる。「文春」は、警察が捜査に着手していない「事件」も「疑惑」として報じ、時には他メディアも追随して警察に「事件化」させる。
「ロス疑惑」報道で「開発・成功」したこの手法はその後、「生命保険5億円/死を招く女」報道(〇一年)、「福岡一家四人惨殺事件」報道(〇三年)などの事件、さらには「大分・聖嶽遺跡捏造疑惑」報道(〇一年)などにも適用され、重大な報道被害をもたらした。
この「疑惑報道」には、共通した手法がある。
@情報源を明示しない匿名・伝聞情報で、「疑惑」を事実らしく印象づける。
A伝聞情報を権威づけるため、「公的機関」「捜査機関」を恣意的に利用する。
B「悪意」「敵意」をもった人物の一方的な主張を鵜呑みにし、その裏付けもせず「事実」と断定して書く。
C「疑惑に答える義務がある」などと形式的に「本人取材」をし、取材に応じれば、それを恣意的に使って、非難記事に利用する。
「ロス疑惑」報道、「聖嶽遺跡捏造疑惑」報道などで駆使されたこの手法は、今回の「セクハラ疑惑」捏造報道でも「活用」された。
@浅野さんを実名で「告発」した登場人物は全員匿名、記事に書かれた「セクハラ」被害なるものの大半は「伝聞」(「本人の話」は、実態のないA子さん、一方的なDさんのケースだけ)。
Aそれを権威づけるため、大学セクハラ委員会の「申立人」に対する不用意な経過報告を「大学がセクハラを認定した正式文書」であるかのように歪曲・捏造。
B浅野さんに「敵意」を抱く渡辺武達・同大学教授及びその指導・影響下にあるA子さん、Dさんらの一方的な話を鵜呑みにし、裏付け取材もせず、記述。
Cアリバイ的に電話・メールで取材を申し込み、浅野さんが、それを拒否すると「取材に応じなかった」と一方的に非難。
京都地裁判決は、こうした「文春」の取材手法を厳しく断罪し、「文春」記事を名誉毀損と認定した。
「聖嶽遺跡捏造」報道訴訟・福岡高裁判決(〇四年)は、《私怨ともいうべき敵対感情を抱いていると容易に知りうるA氏からの一方的な取材に基づいて、賀川元教授が遺跡捏造に関与した疑いがあるとの印象を決定的に強める記事を執筆したことは、報道機関としては著しく軽率》と批判した。
それと同じことを繰り返した今回の記事について、京都地裁判決は、渡辺教授が「文春」に情報を持ち込んでいたことを認定。同教授が《原告に対して敵意に近い感情を抱いていたこと》を、「文春」は認識できたはずとし、《渡辺教授自身及び同教授から紹介を受けた人物から入手した情報の信用性について、被告らは、慎重に検討することが必要であった》のに、その裏付け取材を欠いた、と厳しく断罪した。
この判決は、同じような報道被害にあった人たちにとって、心強い闘いの武器になる。「文春」人権侵害記事の多くが、こうした「敵意」ある人の一方的な話で作られることが多いからだ。
「文春」は、ロス市警が「一事不再理」原則を無視して三浦和義さんを不当逮捕した「ロス疑惑」冤罪の仕掛け人。「疑惑の銃弾」連載が始まった八四年、「文春」報道を真っ先に批判したのが浅野さんだ。以来、「文春」最大の敵となった浅野さんを社会的に葬ろうと強行したのが、「セクハラ疑惑」捏造報道だと思う。
浅野さんの闘い・一審勝訴は、この企みを打ち砕いた。「文春」はそれでも懲りずに二月二九日、控訴した。
地裁判決は「文春」の名誉毀損を認定する一方で、同様の手法で書かれたDさんとE子さんに関する記述については違法性を認めない、矛盾した判断も示した。原告が強く求めた謝罪広告の必要性も認めなかった。この部分を不服とし、浅野さんも三月七日、控訴した。
大阪高裁での完全勝訴に向け、一審に続き、裁判傍聴など皆さんの支援をお願いします。
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