「週刊文春」二〇〇五年十一月二十四日号が《「人権擁護派」浅野健一同志社大教授 「学内セクハラ」を被害者が告発!》との見出し記事を掲載し、浅野氏が文春編集長らに損害賠償などを求めた名誉毀損訴訟で、京都地裁(中村哲裁判長)は二月二十七日、原告側の訴えを大筋で認め、被告に二百七十五万円の支払いを命じる判決を言い渡した。新聞広告・同誌上の謝罪文掲載は認めなかった。判決は浅野教授の同僚である渡辺武達教授による証拠改ざんの可能性・痕跡を認めた。
文春社長室(責任者の姓名なし)は控訴すると表明。浅野氏も、一部の認定に誤りがあり、新聞広告と文春での訂正謝罪広告の掲載が認められなかったことを不服として控訴することを明らかにした。
文春側の喜田村洋一代理人(三浦和義氏の刑事弁護を担当)らは姿を見せず、被告席は無人だった。浅野氏の支援者が十数名傍聴した。被告の名村記者、被告側に立って証言してきた三井愛子(同大で〇四年四月から現在まで外国書講読を担当する嘱託講師)・中谷聡(浅野ゼミ三期生、私大講師)両氏が傍聴した。
文春記事の中で、最もインパクトが強かったのが、三井氏(記事ではA子さん)と海外でセクハラを受けたとされるC子さんのケースだった。浅野氏の同僚である渡辺武達・同大学社会学部教授はC子さんの被害≠問題にするため、陳述書の添付資料に自らがC子さんから受信したという添付ファイルを付けた。文春側はこのファイルを証拠としていなかった。判決は、《渡辺教授がC子より受信したと供述する添付ファイルであるが、同ファイル自体も事後に改ざんできる可能性もあるし、仮にC子がその全文を作成していたとしても、セクハラ委員会への提出を踏まえて内容を誇張した可能性も捨てきれない。なお、同ファイルの文中には「○○」や「◎◎」があり、一旦記載された文章に事後において手が加えられたことを裏付けている》と断じた。
名誉棄損裁判で、情報源の証人が証拠を改ざんしたとまで批判するのは極めて異例だ。また、「学内セクハラを大学当局が認定」としたリード部分に関しても、「大学当局が原告のセクハラのみならずアカハラを含むキャンパス・ハラスメントを認定したと認めることはできない」と断言した。
判決は、「セクハラ」など人格評価に重大な影響が予想される記事では、その影響、被害の重大性、被害回復の困難性などから、慎重で確実な取材、慎重な検証を踏まえた適正な判断をすべき、と指摘。情報源の渡辺教授は「原告に敵意に近い感情を抱いていた」と指摘し、渡辺教授とその紹介による三井・中谷聡両氏らから入手した情報の信用性は「慎重に検討する必要があった」と述べた。 判決は文春の取材当時、三井・中谷両氏の指導教授は渡辺氏であったと指摘し、両氏の言い分を鵜呑みにして、裏付けをとらず記事にした文春を厳しく批判した。この判決は同志社における「学内セクハラ」はなかったとの断定である。
判決は、「記事の作成には渡辺教授が深く関与し、同教授の情報提供がなくては成り立たない状況であったと推認される」と指摘。渡辺教授が文春の取材開始前の〇五年九月から旧知の石井謙一郎デスクに情報をリークしていたと認定した。渡辺教授に“有罪判決”が下ったということだ。また、渡辺教授と共に行動したメディア学専攻教員の責任も重大だ。教員たちの行為が、結果的に文春にまで学内の個人情報を含む多数の文書が渡ることになったことについて、倫理規定違反が問題になるだろう。
浅野氏は判決後、「一部不満はあるが、全体的にはいい判決だった。多額の賠償を命令したのに、謝罪広告を認めなかったのは理解できない。だが、渡辺教授が学内の政争に三井氏らを動員して、証拠を捏造してまで文春に働きかけた策謀の構図が司法の場で認められたのは大きい。勝訴である。弁護団、支援者の皆さんのご努力、サポートに心より感謝したい」と述べた。
裁判の過程で争点にはならず、仮に事実であったとしても、それだけでは絶対に記事にはできないような代物である立命館大学学生のE子さんに対する電話、中谷氏に対するアカハラについて、原告の主張を認めなかったのは極めて不当だ。
文春社長室と共同通信など一部マスコミは、「セクハラの一部が真実と認められた」と宣伝しているが、この裁判は浅野氏によるハラスメントがあったかどうかの事実審理をしているのではない。セクハラ・アカハラの有無はしかるべき委員会やその件の裁判で裁定されるものだ。本裁判は、文春が書いた「セクハラ記事」が浅野氏に対する名誉棄損に当たるかどうかを審理したのであり、その範囲における「真実」「真実相当性」を証拠に基づいて認定しただけである。
E子さんの件も渡辺教授、三井氏が情報源だ。E子さんは当時、立命館大学の津田正夫教授(元NHKディレクター)のゼミに所属していた。「週刊新潮」〇五年七月十四日号は《同志社大『創価学会シンパ』教授の教材は『AVビデオ』》という記事を載せたが、津田教授は同記事の校了直前に、新潮編集部に何度も電話、電子メールで文春記事と同じ内容の情報を垂れこんでいる。渡辺教授に依頼されたことは間違いないだろう。津田教授が捏造した「E子さんへのセクハラ」は、立命館大学セクハラ相談室で門前払いになっている。文春はE子さんに取材を試みてもいない。C子さんには実家へ手紙や電話で接近したが、取材拒否された。
判決後の報告集会では、山際永三氏が「三浦和義さんの拘束事件などを見ると、我々に対する陰謀とさえ思えるような展開が今ある。今回主要な部分で浅野さんが勝ったことにびっくりするような時代だ。高裁で完璧に勝つために努力したい」と述べた。また山田悦子さんは「判決はとても良かったと思う。文春にお金を出させることができた。賠償金が少ないのは、人権にはお金がかからないという日本社会の問題だ」と述べた。集会では、参加者たちが「名誉棄損とされなかった二つの事項を名誉棄損と認めさせ、謝罪広告の掲載命令をとるために全力を挙げよう」と誓った。 |