「週刊文春」記事で名誉を毀損されたとして、浅野健一・同志社大学教授が文藝春秋などに損害賠償一億円などを請求している民事訴訟の第五回期日が、十月二十五日午後四時半から、京都地裁三一三号室(ラウンド法廷、中村哲裁判長)で開かれた。文春側は証人として、石垣篤志(文春記者)・渡辺武達(同志社大学教授)・中谷聡(京都光華女子大学非常勤講師)・三井愛子(同志社大学嘱託講師)・津田正夫(立命館大学産業社会学部教授)の五氏を申請した。
今回は通常の法廷とは違って、裁判官と両代理人、原告らがラウンドテーブルを囲んで膝を突き合わせて話をする形となった。
被告代理人・喜田村洋一弁護士が、同日朝に東海道新幹線静岡駅で起きた事故による遅延で、京都に来られないということで欠席したため、裁判所が東京のミネルバ法律事務所に電話を入れて、電話会議形式で行われた。しかし、新幹線が止まっていたのは午前中だけで、東京を午後一時半過ぎに出れば、十分に間に合ったはずだ。航空便も多数ある。今回の期日は、喜田村弁護士の都合に合わせて決まっており、原告の浅野教授も無理に日程を合わせたという経緯があった。
浅野教授は協議の冒頭、「喜田村弁護士がここにいないのは納得できない。不誠実だ」と抗議した。
中村裁判長は、喜田村代理人による同日付の準備書面を受理し、陳述したと扱うと述べた。喜田村氏はこの書面で、原告がセクハラ加害者であると断定して、非難した。一般的な「セクハラ被害者保護論」に依拠し、渡辺教授・津田教授を信用したと主張している。原告側の主張を歪曲・曲解しての反論≠ェ目に余る。
また、原告側が文春側の虚偽報道を証明するために大学のセクハラ委員会責任者から聞いた内容の一部を先の書面で書いていることを、守秘義務違反の主張とのダブルスタンダードとまで攻撃。また、セクハラに関しての原告の認識が時代錯誤だという侮辱的な表現もある。原告が属する大学の専攻教員「連名」文書(署名も押印もない)について、原告のセクハラ行為が実在していた根拠としている同文書に関する原告側の求釈明には何ら回答していない。
今回、原告の求釈明について、被告側は全く答えなかった。原告代理人の堀和幸弁護士が「何も答えていない。改めて釈明を求める」と抗議。中村裁判長も問い質すと、喜田村代理人は「原告からの求釈の内容については、基本的に証人申請した人たちの陳述書の中で明らかになるだろう。書面では特に答えない」と答えた。裁判長は「確かに抜けているところがある。原告の求釈明に答えない場合、裁判所からお聞きすることもある」と要請。喜田村弁護士は、弱々しい声で、「わかりました」と述べた。
裁判長が「原告側の証人についても、誰を申請するか、大体の予定でいいので言ってほしい」と問うと、原告側は「原告本人は申請する。ただ、被告側の陳述書、証言内容によって、こちらは対応する。表現の自由論、文春ジャーナリズム論やセクハラ冤罪問題などについての鑑定的な証人を申請する」と答えた。
原告側が「文春の石垣・名村両記者が実際に取材したという野原仁・岐阜大助教授が証人申請されていない。また、文春関係者は契約記者の石垣記者だけしか証人申請しないのは理解できない。書面では石井デスクが統括責任者として書かれていた。なぜ編集発行責任者が出ないのか」と質したところ、喜田村弁護士は「本件記事を取材し、記事を書いたのは石垣記者なので、他の文春関係者は他には特に必要ない」と答えた。裁判長は「文春関係者については、(石垣記者以外にも)、裁判所からも聞くことがあると思います」と述べ、喜田村氏は再び「わかりました」と答えた。
さらに裁判長が「十二月八日までに原告が書面を出すので、それについて回答を」と要請すると、喜田村弁護士は「できる範囲で答えます」と答えた。
次回期日(第六回)は十二月十九日(火)午後四時から、同じくラウンド法廷で行われる。
原告の浅野教授は「今回の被告書面は、渡辺武達教授と綿密に打ち合わせて書いている。表現や文体が渡辺教授のものに近い。喜田村弁護士の弁護士倫理も疑う。NHK・講談社裁判でも、私のことを『マスコミ界では誰も相手にしない』などの表現で私を中傷したことがある。文春関係者以外の渡辺教授ら四人が証人になることがはっきりした。文春は渡辺氏と密接に連携している。渡辺氏が本件法廷で証言すれば、渡辺教授が報道被害を受けたとして起こした新潮裁判との報道倫理論の比較ができる。メディア学の学習にもなる裁判になってきた」と語った。
渡辺教授新潮裁判が結審
浅野教授の文春裁判と平行して進んでいる渡辺教授の裁判の口頭弁論が十月十八日午後、京都地裁二〇三号法廷(田中義則裁判長)で開かれた。この裁判は、渡辺教授が、「週刊新潮」(以下、新潮)の〇五年七月十四日号記事「同志社大『創価学会シンパ』教授の教材は『AVビデオ』」で名誉を毀損されたとして、株式会社新潮社と早川清・新潮編集長、山室幸子記者の計三者を相手取り、損害賠償請求を起こした。
原告・渡辺教授の代理人は池上哲朗、中元視暉、拾井美香各弁護士の計三名。被告・新潮側代理人は向井惣太郎弁護士。
当事者・関係者四人の証人尋問が計三時間半にわたり行われた。原告側証人として、原告である渡辺教授、根津朝彦氏(〇六年三月同大大学院新聞学専攻修士課程修了、現在は総合研究大学院大学博士課程)、被告側証人として、本件を取材した山室記者、大門宏樹・元新潮デスク(新潮社を退社、現在は蓮見圭一の筆名で作家)が証言をした。
渡辺教授は、AVシーンが入っているビデオ倫理協会の広報ビデオ(以下、ビデ倫ビデオ)を見せたことを認めた。また、「(ビデオを見て気持ち悪くなる人は)百人に一人くらいはいるかもしれないが、同志社大学学生にはたくさんいるとは思わない」「(私の授業に驚き呆れるほど)同志社の学生はバカではない」などという問題発言を連発した。さらに、証言で「大学が(新潮非難)決議をした」「(生協発行物を)見たことがない」などのウソを言っていることも明白で、偽証の疑いが強まった。
渡辺教授は「山室記者と浅野健一・同志社大学社会学部メディア学科教授は知り合いで、浅野教授が本件を新潮に垂れ込んだ」というデマを流してきたが、原告側はこの点について何も聞かなかった。新潮関係者は「最近、名誉毀損裁判で我々は負け続けているが、今回は勝つ」と自信満々だ。
今回の裁判では、新潮側が公共性・真実性・真実相当性を適格に主張した形だ。何よりも、性交場面の入ったビデオを流したこと自体は渡辺教授側も認めているので、事実関係について争うべき点はこれ以上ないだろう。つまり、記事は事実の適示と、事実についての批判・論評から成り立っているので、渡辺教授側が勝訴するのは難しそうだ。
次回の裁判は、十二月十四日午後行われ、結審する。
また、複数の雑誌関係筋によると、津田教授が、本件記事が掲載された直後の〇五年七月末頃、新潮社に電子メールで、週刊文春記事と同じ内容のタレこみをしたという。また、津田教授本人から「真実を解明する必要があるのではないか。もし取材するなら協力を惜しまない」との連絡が複数回あったという。関係者は「渡辺教授が津田教授に指示したのではないか。渡辺教授自身が我々新潮社にタレ込むわけにはいかないからだ。内容があまりにも荒唐無稽だったし、取材すらしなかったようだ」と述べた。
渡辺、津田両教授らの不当行為について、「紙の爆弾」(鹿砦社)十一、十二月号が詳しく報じている。
(三津奈悟)
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