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『救援』第446号 2006年6月10日発行
大学内部文書の写しを提出 ・・・浅野教授・文春裁判

 「週刊文春」記事で名誉を毀損されたとして、浅野健一・同志社大学教授が、文藝春秋などに対して、損害賠償一億円と謝罪広告を請求した訴訟の第二回口頭弁論が、五月十日午後、京都地裁(中村哲裁判長)で開かれた。

 文春側はこの日陳述した準備書面で、原告側が記事中に「少なくとも十七項目の虚偽記述がある」と指摘していることに対し、証拠説明書と書証(十七点)を裁判所に提出し、記事のすべてが真実であると反論した。この証拠書類のほとんどは、学外に漏洩してはならない「同志社大学セクシュアル・ハラスメント防止に関する委員会」(以下、セクハラ委)審理にかかわる学内文書だった。

 原告側の若松芳也代理人は、被告側が出した証拠書類十七点について「原本を確認したい」と述べ、文春側の喜田村洋一代理人は「できるだけ原本を出す」と答えた。第三回口頭弁論は七月五日(水)午後一時一〇分から。原告側は、被告側書面が出揃ってから再反論することになった。

 被告側が「記事が真実」と主張する裏付けはすべて書類であり、それらで「真実を証明」できるのかどうか。また、原本を所有していると思われるのは、A・D両氏とセクハラ委の責任者、社会学部メディア学科の役職教員だけであり、文春側がこれらの原本を当事者から入手し、証拠として示すことができるかどうかも注目される。

 文春側はこの日、記事中で浅野教授を「告発」したとされる「A子さん」と「Dさん」の姓名を明らかにした。しかし、「A子さん」の指導教授で、〇三年度の「大学院新聞学専攻教務主任」として度々登場し、記事全体の情報源となっている「B教授」(記事中の「同志社大学関係者」「教員」「ある教授」もB氏と推定される)の姓名は明らかにしなかった。
 また、文春側の代理人が一人抜けて二人になった。

 真実相当性の主張を避けた文春側代理人

 被告側の書面では「真実と信じるに相当な理由」については全く述べていない。そこで、中村裁判長が「今日出された書面では、記事はすべて真実という主張だが、仮に真実でなかった場合、真実と信じるに足る相当な理由についての主張はしないのか」とわざわざ質した。これに対し、喜田村代理人は「やる。取材過程を明らかにし、真実と信じるに足る相当な理由≠明示的に、追って主張する」と答えた。裁判長は原告側に、「文春側の書面が出揃ってから、再反論するということでよいか」と聞き、原告代理人も「現時点での反論もできるが、相手から追加で主張が出るのであれば、全部の主張が出てからまとめて反論したい」と答えた。

 文春側は記者二人の取材過程を明らかにせざるを得ないわけで、文春取材に協力した同志社大学教員、関西在住のフリー記者らの関与が分かることになる。原告代理人は、閉廷後の裁判報告集会で「被告側の主張、特に取材過程で何があったのかを注目したい。こちらの反論や被告に対する追及は次々回、おそらく九月以降になる」と述べた。

 文春側「A、Dは同大嘱託講師」と実名明記

 文春側書面によると、「A子さん」は〇三年三月に大学院文学研究科新聞学専攻博士課程を満期退学し、〇四年度から同大嘱託講師を務めている女性。また、「Dさん」は、同大院をA氏と同じく〇三年三月に満期退学した男性。D氏は、学部二年から浅野ゼミに所属し、大学院でも計五年間、浅野教授が指導教授を務めた。D氏の研究テーマは「冤罪・甲山事件と報道」で、〇四年度から同大嘱託講師だったが、なぜか〇五年度末に辞めている。また、今回も「仮名」のままのB氏は、A・D両氏の背後に隠れたまま、本裁判を見守る作戦≠フようだ。

 文春が提出した書類の中には、セクハラ委がA・D両氏に出した書簡や、A・D両氏がセクハラ委や社会学部長・大学院メディア学専攻教務主任・学部メディア学科窓口に提出した文書、社会学部メディア学科の専攻教員七人が〇五年八月十八日にセクハラ委へ出したという「要望書」、浅野教授がD氏へ送った私信や電話録音記録などが含まれていた。

 A・D両氏は、〇四年度から同大教員であり、学内の委員会審議について守秘義務がある。特に、浅野教授を被申立人とするセクハラ委は、現在も審議継続中。同大ではセクハラ委で不適切な行為があったと認定しても、関係者の姓名も含め一切公表しない。にもかかわらず、セクハラ委に対する申立内容や、申立に関して提出した文書、セクハラ委から両氏が受け取った審議経過の書簡などの書面を外部のメディアに漏洩した守秘義務違反の事実が、これら証拠書類から明らかとなった。

 原告代理人は五月二十四日、文春が裁判所に出した学内文書のコピーをセクハラ委に送付した。
 文春記事内容のうち、セクハラ委の部分は、浅野教授や同委員会委員、または大学長が外部に漏洩するはずもなく、A・D両氏が文春側に伝達したと推認できる。同志社大学当局は独自に漏洩ルートを解明し、必要な措置をとるべきだ。

 高まる支援の動き

 口頭弁論終了後、報告集会が開かれ、支援者から「この報道を知ったとき、政治的な背景があると思った」(フリーライター)「同大内の抗争が背景にあることが裁判で解明されることを期待する」(新聞記者)「真相を明らかにするためにも教授を支援していきたい」(学生)などの意見が出た。

 浅野教授の訴訟支援では六月九日、東京都文京区民センターで、七月六日には京都で(時間・場所は未定)支援集会が行われる。両集会とも浅野教授が三月に刊行した『戦争報道の犯罪―大本営発表化するメディア』(社会評論社)の出版記念会も兼ねている。問い合わせは「浅野教授の文春裁判を支援する会」(堀和幸法律事務所気付、メール:on-sk@hotmail.co.jp、FAX:〇七五―二三一―五七五二)まで。

 (三津奈悟<みつな・さとる>)
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