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『救援』第442号 2006年2月10日発行
「浅野教授告発」の「週刊文春」を提訴
      「言論テロリズム」―浅野氏が報道被害
『救援』の記事
                           『救援』 実際の紙面

 昨年十一月、『週刊文春』(同二十四日号)が、「浅野健一教授『学内セクハラ』を被害者が告発」と題した記事を掲載した。この記事に対し、浅野健一・同志社大学社会学部教授は一月二十七日、「事実無根の報道により名誉を毀損された」として京都地裁に損害賠償訴訟を起こした。被告は株式会社文藝春秋、鈴木洋嗣編集長、編集部の石垣篤志・名村さえ記者の計四者。訴状は「セクハラ行為など存在しない」ことを具体的な根拠に基づいて指摘し、記事には少なくとも十七項目の虚偽記述があると全面的に批判している。

 請求内容は、@一億一千万円の損害賠償A文春誌上での謝罪広告B新聞広告欄での謝罪文掲載。発売当日、朝日新聞・読売新聞(東京本社版)に記事と同じ見出しを載せた文春の広告が出た。それを見て驚かれた読者もいるだろう。訴訟では、これも報道被害として取り上げた。新聞広告欄への謝罪文掲載要求は異例だ。司法がどう判断するか注目される。

 文春記事はインターネットにもアップ、それを鵜呑みにした「浅野攻撃」がHPやブログで展開されている。提訴はウェブ上の無責任な名誉毀損表現への警告の意味もある。

 提訴後、浅野氏の代理人、若松芳也、堀和幸、小原健司の各弁護士(京都弁護士会)が司法記者会で記者会見。「セクハラの事実はない。記事は、同志社大学当局や同大学のセクシュアル・ハラスメント防止に関する委員会(以下、「セクハラ委員会」)が、原告によるセクハラ行為を認定したかのように記載したが、そのような事実も一切ない」と強調した。記者会見の模様は、インターネット新聞「日刊ベリタ」に詳報(三木眞記者)されている。

 文春記事は、ジャーナリストの山口正紀氏が『週刊金曜日』十一月二十五日号「人権とメディア」欄で分析した通り、「『匿名の告発者』の一方的主張と伝聞情報で構成され、『告発対象』のみ実名、というアンフェアな手法」で作られている。記事で文春の取材を受けているのはA子、B教授、D(男性)、F教授の四人だけ。後は、伝聞・再伝聞・再々伝聞情報。自分は姿を隠し、背後から襲いかかる「闇討ち」=「言論テロ」というべきだ。

 文春記事はリード部分で、同志社大学が「セクハラを認定した」と書いた。だが、セクハラ委員会は学長が再調査を命じて今も調査中で、何も認定しておらず、明白な虚報。文春にコピーも載った「報告書」なるものは、A子・Dへの私的・非公式な経過報告の手紙にすぎない。

 記事中で最も生々しい「C子さん」に関する記述の情報源も、「事前に教員宛てに出していた文書には、当時の恐怖を知人に打ち明けたときのやりとりが添付されている」とあるだけ。主語がなく、情報源は「ある教員」「同志社関係者」と他の箇所よりさらに曖昧だ。この「教員」「関係者」はB教授と思われる。そのC子さんが「訴えを取り下げた」というのもウソ。セクハラ委は、そもそもA子、D以外からの申立を受けた事実がない。

 記事では、同大学広報課が文春の取材を受け、浅野氏に関してコメントしたことになっているが、これも捏造だ。大学当局は「一切コメントしない。委員会の結論が出ても公表しないのが大学の規定」と石垣記者らに通告している。

 文春は、浅野氏が文春の取材に応じなかったことを非難した。これについて訴状は、@取材依頼内容に事実に反する事柄が多く含まれていたA『ロス疑惑報道』等の報道スタイルから、記事の『公正さ』を保つのに利用されるだけと考えられたB本件がセクハラ委員会で調査中であって、取材に応じることは学内規定に反する――などと反論した。

 メディアは、文春記事の後追い取材をしなかった。「月刊サイゾー」〇六年二月号のみ、山口氏の「週刊金曜日」記事を非難する記事を載せたが、裏づけもない低レベルの論評だ。

 今回の文春記事の背後には、ある陰湿な動きがあった。多くのメディア記者によると、B教授、A子、Dは〇三年秋から、関西、東京などの報道機関に文春記事とほぼ同じ内容の文書を送り、「浅野氏が複数の院生にセクハラをしたと訴えられている」と情報提供した。一部メディアは取材したが、報道しなかった。そのような事実が一切なかったからだ。

 この動きは、〇〇年頃からB教授が中心になり、A子らを使って学内から浅野氏を追い出そうとしたもの。「人権」嫌いの人たちを味方につける一方、浅野氏を信頼する人たちにもデマをばらまき、フェミニストの女性たちに不信感をもたせようというやり方だ。

 A子は記事の中では、浅野氏にセクハラ・アカハラ発言を受けたとなっている。だが、A子はB教授が指導教授であり、浅野氏との間に特別な権力関係はない。

 B教授は、文春記事で「(〇三年度)の大学院新聞学専攻教務主任」と肩書きを明らかにしている。この教授は、長年に渡って自書や講義などで文藝春秋・新潮社に代表される「右派・反動」メディアを批判してきた。その教授が、文春を使って浅野氏を闇討ちした。

 三人と文春記者は連携し、浅野氏の元ゼミ生に暴力的な「取材」もした。三人は同志社大学の教職員であり、学内のセクハラ委員会に関する問題を内外に明らかにすることは、守秘義務違反になる。にもかかわらず、文春に書かせたのは、セクハラ委で浅野氏の潔白の結論が出ると、記事にならなくなってしまうと考えたからだろう。

 文春がB教授らの「情報提供」に飛びついたのは、安部晋三氏や首相の靖国神社参拝を厳しく批判している浅野氏の言論封じが一番の目的と思われる。現に極右グループが、文春記事を根拠に、自治体や大学などに浅野氏の講演会を中止するよう圧力をかけている。

 週刊文春編集部は提訴に対し、「記事は真実。浅野氏本人が取材拒否のままの提訴は不可解だ」という談話を出した。A子らが文春に情報提供したことだけは「真実」だろうが。

 浅野氏は「共同通信記者時代から三十年間、報道被害を調査研究してきたが、自分自身が文春に攻撃された。活字になるとどんなに大変かが分かった。人権と報道の問題を深化する機会を与えられたと考えて闘っていく。相手に不足はない」と語った。

 文春と三人が行った犯罪は、法廷で社会的に正当かつ適切に裁かれるべきであろう。

■「浅野教授を支援する会」(準)の連絡先はメールアドレスon-sk@hotmail.co.jp

 (三津奈悟〈みつな・さとる〉)
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